北京大学医学部ブログ

第5話 大学の独自性 -仁-

学生ブログ
大家好!最近早起きにハマっている悠です。

前回は,医学部の国際認定の条件についてのお話をしたうえで,大学の独自性の大切さを考えました。
今回は,具体的な日本の大学名を挙げて,考察していきたいと思います!


△前回「第4話 揺れる世界の医学教育(前編)」
http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14182

▽次回「第6話 北京を訪れてから一年が経ち・・・」
http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14616



1.大学の独自性

今回は,順天堂大学に絞って見ていきたい思います。北京大学と交流が盛んだそうです。
順天堂大学
(画像引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Juntendo_University)



ホームぺージによると,学是「仁」とあります。


・・・少し話が逸れますが,2年前,僕は『医は仁術』という展覧会を観に行きました。
夏の正午,肩に食い込むような熱い日差しを受けながら,ひとり上野の国立科学博物館へ向かった感覚を今でも鮮明に覚えています。ふと振り返ってみると,行き返りの電車で読んだ本とそのページまで蘇ってくるほどです。笑
僕にとってのその1日は,それほどまでに衝撃的なものでした。

解体新書の現物や明治期のレントゲンなど,展示物そのものにも感動したのは勿論。医学,医療の歴史を通して,一貫して感じるひとつの精神、「仁」に胸を打たれたのです。

それまでの僕は「仁」という言葉を知りませんでした。

正確に言うならば,ぼんやりとした辞書的な意味くらいは頭にありました。
しかし,その一文字の本質について考えることは決してありませんでした。

「仁」とはなんでしょうか。

漢字の成り立ちをなぞると,その精神の輪郭が見えてきます。
仁は人偏(にんべん)「イ」と「二」を合わせたもの。
「二人の人間が信頼しあうこと」を意味します。


「仁」,つまりそれは他を想う心です。慈しむ心です。


これは,医の最も本質であり,基礎であるとぼくは思います。


病は,その時代に関係なく,ある意味で平等に人々を襲います。
まだ日本に「医」が無かった時代にも同様です。人々は病を自然のなるままに任せるしかありませんでした。現代ならば治るはずの病にも,祈り,諦め,ただただその時を待つしかなかったのです。


―――なぜ現代ならば治るのでしょうか。
「医」が発達したからです。内視鏡検査など,昔では考えられないような技術や知識が,現代の医療では当たり前のように繰り広げられています。

―――では,なぜ「医」が発達したのでしょうか。
僕は,人々に「仁」があったからだと思います。


沢山の「どうしてもこの人を救いたい」という意志,他者を想う心があったからこそ,医は飛躍的な進歩を遂げ,僕も,この文章をご覧になっている皆さんも,いま,こうして生きています。自分の生は突発的なものではなく,歴史の産物なのだと思うと,先人への感謝が絶えません。

また,少し前にオリンピック総会で行われた日本のプレゼンテーションで「おもてなし」が話題になりましたが,それはまさに他を想った行動に他ならず,本質は「仁」にあると僕は思います。


すなわち「仁」は,医の原点でありながら,日本の精神であり,順天堂はそれを学是として掲げ,その血を現代に,脈々と受け継いでいるのです。

現代の医療は,以前と比較して産業としての側面が色濃くなっていることもありますが,この本質は決して見失ってわならない大切なものだと思います。


いつもお世話になっている方から伺ったのですが,先日行われた順天堂大学医学部のオープンキャンパスでは,医学部長がポンぺのとある言葉を引用されたそうです。

「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上,もはや医師は自分自身のものではなく,病める人のものである。もしそれを好まぬなら,他の職業を選ぶがよい」

☆ポンぺとは
Johannes Lijdius Catharinus Pompe van Meerdervoort。オランダの軍医で,旧制長崎医科大学開学の祖。近代西洋医学の父とも言われる。日本で初めて基礎的な科目から医学を教えたこと,また,患者の身分にかかわらず診療を行ったことでも知られる。後に,ポンぺのもとで医学を学んだ松本良順が江戸でその学びを広めたことで,順天堂の講義は充実したといわれる。


「仁」のある受験生を求めていることが,ひしひしと伝わってきます。
また,そういった他者を想う心を持つ受験生を募集することが,結果的に長期的な大学独自の社会的責任を果たすことに繋がっているのだとも思います。


ちなみに,順天堂大学大学院には,『ECFMG取得特別コース』というプログラムが存在します。もはや国際的貢献を見据えていることは,言うまでもありません。

☆順天堂大学大学院 医学研究科 国際臨床医養成(順天堂方式)ECFMG取得特別コース
http://www.juntendo.ac.jp/graduate/about/md2014_d.html


他の大学の宣伝みたいになってしまいましたが・・・笑
とてもいい大学であり,本題に戻ると国際認証に最も近い医学部の一つなのではないかと個人的に思います(認証基準は,独自性の確立の他にも,たくさんありますが)。



2.最後に
今回は,大学の独自性をお話しするうえで、「仁」について考えていきました。
精神論,と言ってしまえばそれまでですが,ぼくは大切なことだと思います。

ぼくは何かを決断する時,2人の自分が現れます。
「情緒的な自分」「論理的な自分」です。

心を生して判断しようとするのが,前者。
心を殺して判断しようとするのが,後者です。

なにかに迷ったとき,この両者が闘います。

闘いにはルールが必要です。
ぼくはこれを「仁」と定めたいと思います。

さて,次回は早くも第6話です。
今回もいかんせんマジメな話になってしまいましたが,次回こそ,もう少し肩の力を抜いて,気楽に読めるような記事を書きたいと思います!それでは!