北京大学医学部ブログ

第4話 揺れる世界の医学教育(後編)

学生ブログ
前回の続きです。

△前回「第4話 揺れる世界の医学教育(前編)」
http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14182

▽次回「第5話 大学の独自性 -仁- 」
http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14184

2023年問題は,数値上,圧倒的マイノリティ・・・ほんの一部の人にしか関係のないような問題のように思えます。
・・・にも関わらず,なぜ世界中の大学がこんなにも焦っているのでしょうか。

それは「日本の医学教育は,遅れている!」というレッテルを回避したいという理由があります。

医学と医療ではその中身が異なりますが,WHOなど世界から日本の医療は世界一と賛美されることすらある昨今,これは大きな痛手です。だから,グローバルスタンダードを満たし,国際認証を得る必要があるのです。

仮に,国際認証を得られない場合,例えば,医療ツーリズムなど日本の医療産業は少なからず打撃を受けることが予測されます。
(ただし,上記の通り,医学と医療は本質的に異なるものであるため一概には言えません。その上で,現象としては表面に現れてくるのではないか,というあくまで僕個人の見解だと認識していただけたら幸いです。)
日本での市場規模はおよそ5,500億円と言われていますから,観光が減少した場合,その影響は確かに大きなものです。地球規模では,1,000億ドルの市場とも言われています。

参考までに,下記が,世界の医療観光受け入れ病院ベスト10になります。こんな専門的なランキングがあるのか・・・と思ってしまいます。日本や中国の病院が見当たらないのはやや残念ですが,所詮ランキングなのでそれほど意味はありません。自分にとって必要なスペシャリティに特化した病院を知るほうが重要だと僕は考えます。

☆ Prince Court Medical Center again tops list of 2014 World’s Best Hospitals for Medical TouristsTM
https://www.mtqua.org/wp-content/uploads/2014/12/Prince-Court-tops-2014-Worlds-Best-Hospitals-for-Medical-Tourists-FINAL.pdf

来月には,9回目となる医療ツーリズムの国際会議が開かれたりと,いま非常にアツい話題です。
☆9th World Medical Tourism and Global Healthcare Congress
http://www.medicaltourismcongress.com/

「たしかに,国際基準を満たした医学医療も大切だけど,国内向けの医療を疎かにしていいわけじゃない」
という声もあります。まさに,その通りだと思います。
日本は歴史から捉えるに鎖国の文化ですから,ガラパゴスという概念を疎かにしてはいけません。

グローバル化とは,いわゆる均一化(アメリカ化な気もしますが笑),
ガラパゴス化とは,いわゆる独自化,という風に認識して違いはないと思います。

つまり,一定の独自性も大切なのです。

ならば,ECFMG,WFMEが求める国際基準とは,独自性を破壊するものなのでしょうか。

その答えは,国際基準=WFME基準の本文に明記されてます。

§ Social accountability would include willingness and ability to respond to the needs of society, of patients and the health and health related sectors and to contribute to the national and international development of medicine by fostering competencies in health care, medical education and medical research. This would be based on the school’s own principles and in respect of the autonomy of universities. Social accountability is sometimes used synonymously with social responsibility and social responsiveness. In matters outside its control, the medical school would still demonstrate social accountability through advocacy and by explaining relationships and drawing attention to consequences of the policy.
(引用:WFME Global Standards for Quality Improvement, The 2015 Revision, P.19-P.20, 1.1 MISSION, Annotations)

大切な部分を太字にしました。
独自性という点に着目して要約すると,「大学の社会的責任は,地域,国際的に貢献する意思と能力を含む。それは大学独自の理念に基づくものであり,各校が自律的に定めるものである」とあります。

これは,一安心ですね。
提示された国際基準は,グローバル化とガラパゴス化,見方によっては矛盾しているようにも捉えられるこの二方向の力のバランスを保つもののようです。

反対に,理念や社会的役割や責任があいまいな大学は,認定を受ける際に大きな障壁となりますね。
この問題,大学の独自性につきましては,次回,第5話にて具体的な大学名を挙げながら,お話ししていきたいと思います。

ここで,はじめの話に戻ります。

今回,僕が参加した『第48回日本医学教育学会大会』ですが,そのテーマがこちら。



「医学教育のグローバルスタンダードにおける大学の独自性」

まさに,僕が調べている箇所がテーマだったのです。内容の充実度としても,授業が終わったその足で,わざわざ京都まで出向いた甲斐があるものでした。笑
上記のWFME現会長であるDavid Gordon先生もお見えになっていました。
どの先生のお話しも目からうろこで大変勉強になりましたが,すべてを載せることはできないため,その中でひとつだけ引用したいと思います。

「グローバルスタンダードとは,大学の独自性と相反するものではない。大学内の振り返りと情報交換の景気となる。結果的に,医学教育全体に対する底上げとなる」

とても心強いお言葉です。
医学部と一概に言っても,その内部にはたくさんの部署があります。必ずしも互いに連携が円滑に働いているとは限りません。それゆえに,学内にいるにもかかわらず必要な情報が効率的に入手できない,という状況もありました。

しかし,このグローバルスタンダードをクリアするという目標を達成するには,医学部全体として動かなくてはなりません。自ずと,情報の交換や共有,また大学内の振り返りを行うこととなります。そういった意味では,2023年問題によって,対内的にも,対外的にも,結果的にWin-Winな状況になるのかもしれません。

結論として,「2023年問題は大変だけど,必要!」だと僕は考えます。まあ,世間はその前提で動いているので今更な感じはしますが,時にはその原点を振り返るのも大事なのかなと思います。笑

そんなことをあれやこれやと考えるうちに,またもやご縁をいただき,先日,群馬大学医学部にてプレゼンテーションの機会をいただきました!(偶然にも夏休み1日目・・・笑)
ちなみに,ここ群馬大学医学部は僕が産まれた場所で,本当に光栄なお話でした!



タイトルは,医学教育や2023年問題という枠を少し一歩下がって捉えるという意図から,「グローバル化の意味と意義」とさせていただきました。

例えば,皆さんはグローバル化と国際化の違いをご存知でしょうか。グローバル化という複雑な問題に立ち向かうには,一度,シンプルな疑問や本質に立ち返ることが必要だと僕は考えます。というような,内容をするにあたり,90分というかなり大きな時間をいただいたのでした。笑
色々な不安はありましたが,終了後,たくさんの方々から大きな反響をいただきました。本当に感謝です!

また9月も都内でプレゼンの機会をいただいたので,一般の方でも参加できそうなものがあれば告知できたらうれしいです。

そんな感じで僕の夏休みは始まったのですが・・・
・・・すでに長くなってしまったので,ここらイントロで終わりたいと思います。笑

<追記>
日本で過ごしたこの最後の夏を漢字一字で表すならば,「温」です。猛暑の中,多くの温かさをいただきました。これから,周りの人々や社会に還元していきたいと思います。



3.偶然にも
医学教育学会で日野原重明先生のご講演を拝聴させていただくことができました。


△表彰される日野原先生(掲載許可をいただきました)

104歳現役医師・・・すごい。色々な形容詞を装飾するより,シンプルにこの一言に尽きます。

今回は「ふたたびオスラー博士に学ぶ」と題されたご講演でした。先生の座右の銘でもあるオスラーの「医学は科学に基礎を置くアートである」という言葉があります。その真意を考え直す契機となりました。
高校生のとき,父からプレゼントされた日野原先生の著書『医学するこころ オスラー博士の生涯』という本があります。高校時代の僕には難しくて,ざっと読んでしまったのですが,いま,読み直すとまた違った印象になるのでしょうか。今度,読み返してみたいと思います。



4.最後に
ここまで読んでくださった方,本当にありがとうございます。

次回はどんな記事を書くか,大学の独自性という方針しかまだ決めていません。

ですが,公式ブログとして,自分の空間としての認定を受けた以上,より独自性を意識して受験生(地域)のみならず,広く色んな方々(国際)を意識したブログにしていきたいと思います!それがこのブログを書く上での社会的責任かもしれません・・・!

・・・WFMEチックに言ってみました。笑

今回はすこし堅すぎたので,来月はもっとラフに更新しようと思います。それでは!