北京大学医学部ブログ

第4話 揺れる世界の医学教育(前編)

学生ブログ
大家好!日本最後の夏を満喫している悠です。

作業用のパソコンが故障してしまい,更新が1か月ほど遅れてしまいました。申し訳ありません。

今回はそのお詫びも兼ねて,実用的な内容を意識したブログになっています。コミカルな要素もあえて,排除しています・・・笑

北京大学や医学部を受験される方々のみならず,医療系学部を目指されている方々,それから現役でご活躍されている医療職の方々,みなさんに関係のある内容を選びましたので,お時間のあるときにご覧いただけたら幸いです。

まずは,イントロダクションとして,このブログの進展についてのお話です!


△前回「第3話 授業の雰囲気」
http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14178

▽次回「第4話 揺れる世界の医学教育(後編)」
http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14183



1.光栄なことに・・・
このブログがISI国際学院によるオフィシャルブログとしての認定を受けました!
以前から何らかのブログサービスを利用して情報発信をしていこうとは考えていたのですが,今回ホームページにこのような場を設けていただき,非常に光栄に思います。

つきましては,ブログのタイトルも付けさせていただきました。

「Dr.悠になるまで」

長期的な掲載を目標として,自分の五感で得たものを発信していく。そんな意味を込め,こんな名前を付けてみました。実際はもっとコダワリの強い案も沢山考えていたのですが,本質は常にシンプルであるものかなと思い,寝起きにパッと思いついたこのタイトルにしました。

こんな諺があります。

A watched pot never boils.
見つめる鍋は煮え立たない。

US100ドル紙幣で有名なBenjamin Franklinが著した世界初の格言カレンダーPoor Richard's Almanackにある,僕が最も好きな言葉の一つです。
何かを考えすぎてしまったときは,これを思い出します。


(画像引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Poor_Richard%27s_Almanack)

今回,パソコンの故障で投稿が遅くなってしまいましたが,これから気を引き締めなおして,継続的な情報発信に努めていきたいと思います。よろしくお願いいたします!



2.やっときた,夏休み
待ちに待った夏休みです!
やっぱり夏は爽やかでいいですね!とても満喫しています。笑



・・・が,僕は夏休みが始まる一足先に,ご縁があり,大阪医科大学で開かれた『第48回日本医学教育学会大会』に参加してきました。



みなさんは,世界における日本の医学教育の現状をご存知でしょうか。

元来,僕は医学教育にとても興味があり,時間があるときに自分で調べたりしているのですが,近頃の医学教育は,2年続けて日本に医学部が新設されたりと,その良し悪しはさておき波乱に満ちています。
特に,日本で言うところの『2023年問題』は非常に難しい問題です。
いま世界で最も話題の医学教育問題といって過言ではありません。

この問題,実はアメリカ・カナダ以外のすべての医学校に関わる大きな問題となっており,現在も日々,北京大学や東京大学,シンガポール国立大学など,世界中の大学がその対応に追われています。


では,その2023年問題とは一体何なのでしょうか。



今回,第4話では,2023年問題を中心として,それを取り巻く様々な現象や本質についてお話していきたいと思います。



・・・2023年問題。
簡潔に言うと,今後,日本の医学部を卒業してもアメリカで医師免許を取得できなくなるかもしれない,という問題です。
正確に言えば,2023年以降は,国際基準で認定を受けた医学校の出身者にのみ米国医師国家試験の受験資格を認める,という米国の専門団体からの通告になります。


その団体こそ,ECFMG (Education Commission for Foreign Medical Graduates) という米国医師国家試験受験資格審査NGO団体なのですが,



数年前,ECFMGはこう表明しました。

「2023年までに世界の医学部は国際基準を満たしてください。基準を満たした医学校の在校生・卒業生のみ,米国の医師国家試験を受けられます。その認定はWFMEという団体に委託します」

ということで,WFME (World Federation for Medical Education) ,世界医学教育連盟が世界中の医学校を国際認定する権限を獲得しました。



そこで,WFMEは考えました。
「認定をする上で,明確な基準が必要だ」

そこで作成されたのが,多くの大学を悩ます『WFME Global Standards for Quality Improvement』という基準です。いま現在の医学教育における国際基準となっており,下記がその全文になります。
http://wfme.org/standards/bme/78-new-version-2012-quality-improvement-in-basic-medical-education-english/file


これを受け,世界中で「まずは各国で自国の医学部を教育認定(自己点検)しよう」という動きが活発になりました。
日本でも『一般社団法人 日本医学教育評価機構』,通称JACMEが設立されました。その名のとおり,日本の全82校の医学部それぞれの教育を認定する機関です。中国には,同様の役割を果たす『Working Committee for the Accreditation of Medical Education』という団体があります。先日連絡したところ,日本よりも設立が早かったこともあり,現状として中国は日本よりも対応(自己点検,国内認定)が進んでいるそうです。具体的に進んでいる箇所は,この場ではなく説明会が相応しいと考えますから,また別の機会にお話させていただければと思います。

とはいえ,結果的に2023年までにクリアすればよい問題なので,「今が進んでいるから良い!」とは一概には言えません。
が,なかなか一朝一夕で解決する代物ではないので,世界各国の医学校は大変焦っています。綿密な長期的計画やそれに伴う準備,短期的な目標設定など,認定に必要な作業は大学にとって大きな負担なのです。


しかし,
「そもそも,わざわざアメリカにこだわる理由は何なのだろう。ここまでして認定を受ける必要はあるのだろうか」
と思われる方も多いのではないでしょうか。

たしかに,何をそこまで切迫して認定を進める必要もないのでは・・・と僕も思っていました。
しかし,この問題の本質は別の場所にあります。一体それは何なのでしょうか。

そこで,ここで一度,僕たちの最も身近にあるであろう国,日本国内に的を絞って,その問題について少し掘り下げていきたいと思います。



まず,年間にどれだけの日本人がアメリカの医師国家試験に合格しているのでしょうか。

ECFMGが春に発行した年次報告書によると,2015年度に,世界中から「アメリカで医師になってもいいですよ」という認定 (正式名称はECFMG Certificate) を受けたのは,10,000人。そのうち,日本の医学部を卒業した日本国籍の人は,62人,全体の0.6%でした。

☆参照:ECFMG 2015 Annual Report
http://www.ecfmg.org/resources/ECFMG-2015-annual-report.pdf
(P.17, Exhibit 4: Standard ECFMG Certificates Issued in 2015: Distribution of Recipients by Country of Medical School and by Country of Citizenship)

厚生労働省の発表では,2014年度における日本の総医師数は,311,205人
2年に約8,000人のペースで日本の医師数は増えていますから,2015年度はおよそ315,000名の人々が日本の医師免許を保有していると予測できます(雑ですが)。

☆参照:平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況(全体版)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
(P.5, 表1 施設・業務の種別にみた医師数)

したがって,毎年アメリカで免許を取得する日本の医師は,



つまり,全体の約0.0196%。

たしかに,この2023年問題は,数値上,圧倒的マイノリティ・・・ほんの一部の人にしか関係のないような問題のように思えます。
・・・にも関わらず,なぜ世界中の大学がこんなにも焦っているのでしょうか

それは,アメリカで医師になれないからだけではありません。

後編につづく