北京大学医学部ブログ

第8話 順天堂医院見学

学生ブログ
皆さん、新年明けましておめでとうございます!日本語でこの挨拶をする機会ももうしばらくないかなと思うと、新年早々すこし寂しい気持ちにもなってしまいます。
 

△北京渡航後に良い映像を撮影するために、マイクを購入しました

===================================================
△前回「第7話 中国語の理系試験」

▽次回「第9話 僕が感じたイチからの中国語」
===================================================

さて、昨年12月に順天堂医院の見学をさせていただきました!

北京大学医学部に進学を決めてから、はや1年と1カ月。
ふと振り返ってみると、いままでより「一歩下がって日本を見る」ということが少しずつできるようになってきたのかなと、そう感じます。そんな僕が今回の見学で感じたことを、今回のブログのテーマとし、振り返りつつ、書き留めておこうと思います。

多忙を極める医学部受験生の方々にとって、今回の病院見学の具体的な情報が入学試験の小論文や面接のときに役立つことを願います。

なお、この見学は、ISIのカリキュラムとして、毎年開催されています。順天堂の先生方、入学前という立場でありながら大変貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。
 

△日曜劇場『JIN -仁-』にも沢山登場した順天堂医院

(i)見学に至った経緯
日本で初めてJCI*1認証を取得した順天堂医院には、北京大学医学部をご卒業の先生が勤務されています。そういった背景から、ISIのカリキュラムとして順天堂医院を見学する機会をいただきました。

*1 Joint Commission Internationalの略。米国の医療第三者評価機構として発足したThe Joint Commissionの国際部門。 


(ii)見学の概要
今回の見学は大きく二部構成でした。

① 天野篤院長のお話、②院内見学。
①に関しては、ISIスタッフの方が非常に分かりやすく書いてくださったので、僕は②について詳しく書いていきたいと思います。

 ◎順天堂医院 病院見学(執筆:ISIスタッフ 遠藤さん)
 http://www.isi-ryugaku.com/shingaku/medical/blog/14954

余談ですが、日本には学閥というものが存在し、どこの大学の出身かということを気にされる方も多くいらっしゃいます。つまり、院内のキャリア形成において同郷の先生を優遇するといった考え方です。そんな中で順天堂医院は完全な実力主義、出身校は関係ありません。つまり、学閥がないと考えられます。これは、臨床能力の高い北京大学の卒業生にとって、非常に親和性の高い医院と言えるのではないでしょうか。実際に、案内をしてくださった先生も留学経験がおありで、国際色豊かな病院だと感じました。


(iii)見学にあたっての個人的な目的、成果、課題
目的:日本の最先端医療に触れる(渡航後に、日本と中国の医療を縦横に比較をするにあたり、日本人として日本の最先端を知るということを意識した)。
成果:日本の最先端医療の現場を経験できた。主に、治療方針、医療設備、医院設計など。
課題:医療技術に触れることができなかった。より具体的に現場を学ぶために自身の医学知識の増強が必要だと実感した。今回はその名の通り見学に留まったため、臨床実習など、より参加型の学習を将来的に取り組めたらと思う。


(iv)具体的な順天堂医院の最先端医療
 具体的な順天堂医院のどこに最先端医療を感じたのか、ということについて、6つのポイントに絞ってお話していきたいと思います。

① 標準治療
順天堂医院のすべての科において統一されたガイドラインがある。自分流の治療を行うには、専門内外の医師、弁護士、新聞記者といった他職種の意見を仰ぐ臨時会議にて治療方針を決定し、患者の同意を得たのちに、病院に受理されなくてはならない。決められた治療を正確に行うことによって、徹底したリスクマネージメントが行われていると感じた。
私が生まれた場所で起きた、群馬大学病院腹腔鏡手術後8人死亡事故においても、新しい術式を許可なしに行ったために問題になった。事実として何人かは成功したが、それも結果論、悪い言い方をすれば確率論に過ぎず、順天堂医院のような管理を行うべきだと感じた。

② 事故防止
 

△院内での事故防止ポスター

院内での事故は、治療に関係がなくともその責任の在りどころが問われる。例えば、患者が院内で転倒した場合に、病院の責任問題になる。こういった事故は、全国の医療施設でも非常に頻繁に起こると聞く。順天堂医院ではトリアージのように、あらかじめ、赤色、黄色、白色と分類することで、患者の転倒リスクを評価している。例えば、赤色は一人での歩行は不可との評価がなされる。
また、院内では考えれば考えるほど、感染、転倒、人の間違いのリスクがある。例えば、順天堂医院では患者を呼ぶときに「Aさんですね」という言い方は禁止されている。お年寄りで耳が悪い方は、反射的に返事をしてしまうことがあるからだ。よって、①標準治療の一環として「お名前は何ですか、生年月日を教えてください」というテンプレートが決められている。加えて、院内全体を通して徹底してこういったリスク回避を行うために、医師やコメディカルがガイドラインを守っているかどうかを確認する役割の職員もいる。無駄な人件費のようにも思われるが、最悪の事態を防ぐためには必要なことであると先生はおっしゃる。よりハイレベルな病院を目指す順天堂医院として、細かな気配りも非常に重要なことなのだと感じた。

③ 救急カート
緊急で使う手術道具が入っている。どこに何が入っているかが院内を通して統一=標準化されている。カートはペットボトルと同じように、一回開けたら、再度閉めることができない仕組みになっている。一回でも開けたら、倉庫で交換をし、常に100%の状態を保っている。また、アルコール消毒液や電気ショックの充電など細かい部分にも徹底されており、何時何分に充電されたのかといった細かなチェックも行われていた。

④ AI

 

病院に入るとすぐ、ペッパー君がお出迎えをしてくれた。しかし、院内でのこの扱いは非常に繊細なようだった。
以前であれば、
ペッパー君「あなたは元気ですか」
患   者「それが、元気がないんです」
ペッパー君「僕は元気です」
といった具合に、話を終わらせてしまうこともしばしばあった。しかし、最近では、
ペッパー君「あなたは元気ですか」
患   者「それが、元気がないんです」
ペッパー君「僕と話して、元気が出るといいんですけどね」
といった具合に、気の利くことを話してくれるようになったそう。最近は、IBM Watsonが話題になっているが、このような人工知能(言語理解、学習や意思決定)とロボットを組み合わせることで、医療ロボットが診断するという未来が、数年以内に実現される可能性があるそうです。つまり、単に知識や計算をするという仕事において、すでに機械は人間よりも大きく優位性を持つ。医師としてロボットが今後のライバルになるということは、決してサイエンス・ファンタジーの世界にとどまらず、現実の問題となってきている。私たち医学を研鑽する者たちは、どのようにロボットと差別化していくかということについて、よく考えなければならないと感じた。一方で、医療用の人工知能は、責任の在りどころなどの法律問題が多く未解決であるため、実用的な導入にはまだ時間を要するとも考えられる。

⑤ 共通マーク

昨年、東京五輪に向け、温泉のマークが外国人にとって分かりづらいという理由から、そのデザインが変更されたということは記憶に新しい。順天堂医院は、外国の患者が来院した場合にも施設の理解ができるよう、院内のマークには世界共通のものが採用されている。

⑥ エレベーターや階段

順天堂医院は、日本初のエレベーターでの避難想定施設。火災時にも使用できるエレベーター(避難誘導用エレベーター)が設置されている。実際に東京消防庁が非常用エレベーターによる垂直避難経路を想定した建物の第一号として、練習をしに来ることもある。地上21階、最高高さ約100mにも及ぶ順天堂医院において、自立歩行の不可能な重症患者の確実な避難経路確保は、必要不可欠であると考えられる。また、階段は段差の角が直角になっておらず、丸みを帯びさせることによって、掃除の際に菌をふき取りやすいように設計されている。


(v)まとめ
 順天堂医院は、個人的には何度も訪れたことがあり、とても馴染みのある病院です。しかし、今回このような形で細部にわたって院内の案内をしていただき、将来の医療従事者として大変勉強になりました。天野院長にも、直接ご質問させていただけたことを大変光栄に思います。先生方の期待に十二分にお応えできるような医師になるために、北京で臨床医学を研鑽していきたいと思います。また、渡航後は中国の病院について記事を書く予定です。その時まで、ご愛読をどうかよろしくお願いいたします。



2. おわりに
 2017年、一回目の更新となった今回のブログ、いかがでしたでしょうか。新年早々、堅い記事になってしまい、ブログというより、報告書を書いている気分でした(笑)
これから高校の同級生と食事に行ってきます。早いもので日本にいられるのも残り1カ月とすこしとなってしまいました。日本でしかできないことをこの1年ずっと考え、行動してきましたが、本当に時間はいくらあっても足りません。やりたいことがたくさんあります。もう一度、優先順位を考慮したうえで、充実した日本ラストスパートにしていきたいです(^^)
 出国までにあと何本記事が書けるかわかりませんが(もちろん渡航後もたくさん書きます!)、皆さん、残りわずかとなった留学準備編、どうぞよろしくお願いいたします!!