ISIグループ代表対談

社長対談

ISI通信 GLOBER Vol.41の特集「あなたの夢はなんですか?」で行われた、早稲田大学文学学術院教授楊達氏と株式会社アイ・エス・アイ代表取締役社長荻野正昭の対談をご紹介します。 ※この対談は2012年11月に行われました。

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最初の夢は車に乗ること


先生は中国語教育の第一人者として早稲田大学で教鞭をとられ、また企業家としてもご奮闘なさっていると聞きますが、先生にとっての夢とはどのようなものだったのでしょうか?


私が北京にいた1960年代は、街にはまだ馬車が走っている時代で、ちょうど文化大革命の政治動乱期でした。
当時私の両親は大学に勤めており、私は母について農村に下放(徴農制度)に行きました。子どもだった私には楽しく良い時代だったのですが、大人にとってはたいへんな時代だったと思います。
農村に行って、最初に入れられたのは寄宿の学校で、もともとは社会犯罪者を収容するための監獄だったところで、住所ではなく番号で呼ばれていました。周囲には二重の壁があり、四隅にサーチライトを照らすための見張り台がありました。塀の外には堀が巡らされていたので、吊り橋を渡らなければ、学校から出ることができませんでした。

のちに親のいる583(地名)の近くの学校に移りました。家から学校までは1キロくらいの距離だった思います。粘土質の歩きにくい道だったので、通りかかった馬車のおじさんにお願いして乗せてもらうことがありました。秋になると、荷台に高く積まれた干し草の上に寝転んで、その匂いを嗅ぎながら馬車に揺られていたことを思い出します。

ある日馬車に揺られながら、なぜか「将来、1回は自動車に乗りそうだな」という意味不明な夢を持ったんですね。「乗りたい」ではなく、「乗りそうだ」と。
その後いろいろあって、北京に帰り、両親と日本に来ることになりました。1974年のことです。北京を出発する日にタクシーが家に来て空港まで送迎してくれたんです。いきなり夢が実現しちゃいました。それも自動車だけでなく、飛行機にも乗ってしまったんですから。
当時は中国と日本の定期便がまだない時代でした。僕が乗ったのは、おそらく、北京―東京間を戦後初めて飛んだ直行のチャーター便だったと思います。飛行機に乗るというのは、僕らにとって宇宙船かスペースシャトルに乗るような非現実的なことでした。

こうしたことを経験したからか僕には「夢はいつか必ず実現するもの」という感覚が知らず知らずに身についているようです。夢に向かって奮闘しなくても、社会の環境が変わることで、夢と思っていたことが実現可能になることもあるんです。僕には「夢は向こうからやってくる」と思えるんですよ。


DIG開発も偶然の重なりから



先生はパソコンを使ってゲーム感覚で中国語を習得する「早稲田式20STEP速修ビジネス中国語」というソフトの開発と普及に取り組んでいらっしゃいますが、完成するまでには相当ご苦労されたのではないですか?


それがそうでもなかったんです(笑)。人間って夢を追っていると、不思議と苦労を感じないってことがあるんですね。今も一日10時間以上働いていますけど、つらいと感じたことは一度もありません。
開発当時、私は成城大学で働いていましたが、早稲田大学の理工学部でも中国語を教えていました。生徒の一人が期末試験を休んでしまったので、追試を受けるように言いました。そこでふと思いついて、彼にプログラミングをやってみないかと依頼してみたんです。理工学部の学生ならプログラミングくらいできるだろう、そんな軽い気持ちからでした。2週間後、彼が持ってきたソフトが早稲田式速修中国語の原型になりました。もしも彼が予定通り試験に来ていたら、早稲田式速修中国語は今存在していなかったかもしれません。
早稲田式速修中国語というのは、研究者3名の名前の頭文字からとっているのですが、仲間をはじめ、周りの協力がなかったら夢の実現に近づくことはできなかったと思います。


「夢が来る」から「夢の途中」へ



僕が成城大学から早稲田大学に移ったのは2000年でした。学部内の機関誌に『夢が来る』というタイトルで「コンピュータを語学教育に導入すれば、学習効率が上がって早く習得できる」というあいさつ文を書きました。そして最近同じ機関誌に寄稿したエッセイのタイトルが『夢の途中』でした。


2000年の時の夢を今も追い続けているという意味ですか?


そうですね。コンピュータと文法の研究がうまく進んでいけば、今まで1年間勉強していたことが1日で習得できるようになります。信じられないスピードで日常会話ができるようになる、という夢を追いかけているわけです。


早稲田大学では早稲田式速修中国語を導入されて、既に実績も出されていると聞きます。どこまで行けば夢のゴールなのでしょうか?


それはまだわからないですね。初めは日本人の中国語学習者向けに作られた早稲田式速修中国語でしたが、海外の研究者たちとの出会いから、英語圏の学習者向けのものが開発され、ドイツ語圏の先生も興味を示しています。夢はまだたくさんあって、それらを実現させるためにこれからも努力し続けていかなくてはならないと思っています。


海外に出て自分の夢を見つめ直す


毎日大学生と接していらっしゃって、学生の夢に対する意識についてどのように感じられますか?


イギリスのケンブリッジ大学に在外研究していたときに経験したことですが、授業で将来の夢を訊かれて、学生の一人が「外務大臣になりたい」とはっきり言うんですね。それを聞いて笑う人もいません。日本では例えそう思っていたとしても、口に出して言うことはほとんどありません。


日本の若者は夢の実現に対する意欲が希薄ですね。


私は中国語を教えているので、自分のクラスの学生たちには中国に行けと言っています。日本はすごくいい環境ですが、一方で中国の空気や熱気、いい意味での"がめつさ"のようなものを経験してほしいと思います。一番の人は常に努力しなければいけないんです。早稲田大学に来ている以上は、日本をリードする人になってほしいし、なるかもしれない。だったら、もっと外を見て危機感を覚えて帰ってきてほしいといつも彼らに言っています。


実際今年の夏も学生さんを中国でのインターンシップに連れて行かれましたね。海外に行くのはいろいろなリスクもあるし、日本の大学ではあまりやりたがらないことだと思うんですが。


確かにリスクはあります。でもこの夏休みで学生たちは大きく成長しました。夏休み前とは学生の顔が違うんです。やってよかったとすごく思います。


私は日本の高校を卒業して中国の大学に進学しましたが、大学で中国人の学生だけでなく、多くの外国人留学生や日本人留学生と接する中で、自分の価値観の幅や視野が広がって、自分は何をすべきなのか、何をしたいのか、改めて自分のことを考えられるようになったと思います。夢を持つこと、目的・目標を持つことを、環境が自然と気づかせてくれた。留学をきっかけにして学んだことは多かったです。


荻野社長のおっしゃった、留学先でいろんな人と出会って、視野が広がったという言葉にはすごく共感を覚えます。今の日本人の若者ってみんな同じ環境にいるんですよ。観るテレビも同じ、考えていることも同じ。私たちの時代は、僕は農村にいて馬車に乗っていた、工場で働かされていた人もいた、もっと劣悪な環境で働いていた人もいた、あるいはお父さん、お母さんが吊し上げにあっていた人もいた、いろんな人生があったわけです。僕が夢を持ったのも、そうした多層な環境に置かれたからではないかと思います。若い人たちには、夢と出会うために、勉強したり、留学したり、いろいろな経験を積んでほしいですね。

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夢に遠慮は要らない



学生時代海外にはよく行かれたんですか?


全然でした。積極的には回っていない方だったと思います。
自分が海外に行くことに消極的だったのは、日本に来て結構たいへんだったので、やっと落ちついたところを離れたくないという潜在的な意識があったのかもしれません。学生時代はその辺を怠って本当に後悔しているところです。
ですから、学生には中国に限らず世界を回るように勧めています。私のクラスにも現在アメリカに留学している学生がいます。
海外に出ることに限らず、GLOBERの読者のみなさんの世代にはわずかな希望があれば、何でもチャレンジしてみるべきですね。私は35歳のときにやっとそのことに気づいたんですよ。それまでいろいろなチャンスがあったのですが、ずっと大切にしてこなかったんですね。断ってからあとで後悔することが続いたので、次にチャンスが来たらまずやってみようと決めました。NHKから中国語講座の講師のお話をいただいたのはちょうどそんなときです。やれるかなと一瞬迷いましたが、こういうチャンスはもうないかもしれないと思い、お引き受けしました。


まずはやってみるチャレンジ精神ですね。


夢に遠慮は要らないんです。がめつく何にでもチャレンジしてほしいですね。


信念を持って最後までやり遂げること


夢を追っていて失敗とか挫折はありましたか?


失敗と成功はどちらが多いかといえば、当然失敗が多いです。言えないことだらけです(笑)。失敗は成功の母とか、失敗は成功の素といいますけど、やはりあきらめないことですね。自分が設けたラインは、絶対できると信じることが大切です。うまくいくかなと思って始めるより、たぶんできるはずだと思って始めるほうがうまくいきます。僕はよく見切り発車をして、みんなに迷惑かけるんですが、今の世界に存在していないものを提供することで、いつかみんなにお返しをしたいと思っています。


ISIの企業理念に、「人々の夢の実現と国際社会の発展に貢献します」という言葉があります。私はISIが関わった学生さんには夢を持ってほしいと思います。夢を実現するためには努力が必要ですが、先程先生がおっしゃったように、夢のためなら努力も苦にならないはずです。夢をエネルギーに変えて、がんばってほしいと思います。


正直私もまだ夢の途中の人間です。昨日は楽観していたのに、今日は悲観していたりと。でも何かを成し遂げた人たちの言葉を見ると、信念を持つということ、最後までやり続ける、これが大切だとすごく感じます。


夢のゴールにいつ到達できるかはわからないものですが、夢の途中を大切にして楽しんでほしいです。特に夢を忘れがちな日本人の学生には、ISIの外国人の学生さんの夢を知ってもらって、刺激を受けて日々の勉強に生かしてもらいたいと思います。


「人々の夢の実現」。あらためていい企業理念だと思いますね。


ありがとうございます。今日は貴重なお話をありがとうございました。ISIは来年度から本格的に早稲田式速修中国語を中国語学習に導入し、早稲田式速修中国語日本語教育版の開発にも参画させていただく予定です。どちらも新しい挑戦ですが、今から成果がとても楽しみです。今後ともよろしくお願いいたします。
楊 達(よう・たつし)教授 プロフィール
1961年北京生まれ。1974年来日。1992年早稲田大学文学研究科修士課程修了。成城大学文芸学部講師・助教授を経て、現在早稲田大学文学学術院教授、中国語教育総合研究所所長。専門は中国語の文法と第二言語習得についての研究。2008年大学発ベンチャー企業「株式会社空間概念研究所」を設立し、コンピュータやスマートフォンなどによる学習コンテンツを研究・開発中。